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月刊がん もっといい日Web版

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『週刊がん もっといい日』編集部(株式会社日本医療情報出版)
TEL.03-5688-7816
FAX.03-5688-7803




週刊がん もっといい日
2010年Vol.235
12月24日更新


Vol.235の目次 『週刊がん もっといい日』編集部 山本武道からのメッセージ

@クローズ・アップ
朝日新聞「がんワクチン」報道をメディアの姿勢から考える
獨協医科大学神経内科 小鷹昌明
(2010年12月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行 http://medg.jp)

Aクローズ・アップ
EML4-ALK肺がんに対する海外治験参加の経験(その2/2)
大阪府立急性期・総合医療センター 内科・呼吸器内科 谷尾吉郎
(2010年12月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行 http://medg.jp)


Bセミナー・イベントのお知らせ

10年12月17日更新内容 全記事はこちら

『週刊がん もっといい日』編集部Web担当者のつぶやき
 
 いきなり、裏方役が横を通りますことをお許し下さい。毎週1回、がん情報専門Webサイト『週刊がん もっといい日』の更新、編集を行ってきた担当者の綱本と申します。今週のVol.235で『週刊がん もっといい日』は、4年と9か月を迎えました。同時に私としては今回が、最後の裏方役となります。
 私が行ってきた作業は、エッセイでおなじみの山本編集長から原稿を受け取り、そのデータをサイトへ貼り付ける単純なものなのでしたが、さすがに5年近く続くとページもコンテンツも膨れ上がり、気づけば管理が追いつかないほどの分量となっていました。
 がんの予防、治療、再発防止に役立つ情報誌として7年間にわたり発行された雑誌『月刊がん もっといい日』が休刊したのが2006年2月9日発売の3月号でした。このサイトが出来上がったのは、それからわずか1か月後です。
 雑誌が休刊してからは、「残念です」「何とかなりませんか」「ホームページを消さないでくださいね」と、さまざまな問合せが殺到し、休刊してしまった雑誌のホームページをどうにかできないか試行錯誤したのが山本編集長でした。
 もともと、毎号の更新とメールマガジンの配信をしていた私は、ある日、山本編集長に呼ばれ「今後は今のサイトをリニューアルして、『週刊がん もっといい日』として更新していく」と言われました。さあ大変です。休刊してスタッフも解散し、残ったのは山本編集長と私、そして僅かなスタッフ。これまで月1回だった更新が、週に1回となるとは思ってもみませんでした。
 もともとのホームページを大きく崩し、どのように見せるか山本編集長と四苦八苦しながらキャッチボールを繰り返し、Vol.1の『週刊がん もっといい日』は05年3月17日に更新されました。
 それから4年と9か月、ナンバリングのミスや誤植の指摘などをいただき恥ずかしい思いをしたりしましたが、ここまで続けてこられたのは、すべて読者の皆様のおかげです。ほんとうにありがとうございます。これからもこのサイトは続いていきますので、何卒よろしくお願いいたします。ならびに山本編集長、これまで大変お世話になりました。今後は、一読者として応援させていただきます。
 私はこのサイトの更新を続けて、闘病中の方々の勇気、気力、根性、喜び、悲しみ、生きる毎日、闘う現実と、数え切れないさまざまな感情を知りました。ここで学んだことを肝に命じて、裏方役はこの場を失礼させていただきます。さて、最後に山本編集長の受け売りで恐縮ですが、この挨拶をさせて下さい。
 これからも、皆様の毎日が「もっといい日」でありますように・・・。

『週刊がん もっといい日』編集部Webサイト担当 綱本伸正

追伸 
 綱本氏は、決して裏方役ではありませんでした。『週刊がん もっといい日』編集部の一員として、日々、書店からの雑誌と書籍の注文、たくさんの患者さんと家族の方々からの問い合わせ等々・・・4年9か月にわたり、活躍してくれました。
 次の職場でも、『週刊がん もっといい日』の業務に携わった経験を生かしていただければと思います。お疲れ様でした。
 なお『週刊がん もっといい日』は、今号が2010年最後の更新です。
 2011年もまた、皆様にとって「もっといい年」でありますように・・・。

『週刊がん もっといい日』編集部 編集長 山本武道

☆☆☆「週刊がん もっといい日」VOL.235☆☆☆


クローズアップ

朝日新聞「がんワクチン」報道をメディアの姿勢から考える

獨協医科大学神経内科 小鷹昌明

(2010年12月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行  http://medg.jp

 朝日新聞の「がんワクチン」報道に関する見解として、東京大学医科学研究所附属病院は事実誤認、歪曲、論点のすり替え、あるいは捏造の可能性を訴えている。本治験に携わっているわけでもなく、がんを専門にしているわけでもない、まったくと言っていい程の門外漢の私(北関東に位置する大学病院に勤務する神経内科医)ではあるが、こういう疑惑のメディア報道を耳(目)にすると、臨床の現場医師として一言申し上げたくなる。

 予め述べておくが、私は、今回のこの一連の作為的な報道とされる事件に関して、真相を知るすべもなく、その立場にいるものでもない。ネットから伝え聞く情報以上に真実を知る余地はないので、朝日新聞に誤認があるのか、ないのか、その真偽を伝えることはできない。醒めた目で熱く傍観しているだけである。私の伝えるべきことは、こうした報道を通じて、多くの勤務医師が何を感じ、どんな行動を起こすかということである。

 それは、一言で言うならば、「真実はどうあれ、朝日新聞は医療者の日頃の思いというものを考慮することなく、その地雷を踏んでしまった」ということである。また、「その報道は、切羽詰まった治験中の、あるいはワクチン治療に期待を寄せるがん患者に対しては、何の恩恵ももたらさない」ということである。

 メディアの使命というか、危機への耐性というものは、端的に言えば「政治的弾圧や世間からの風評、他のメディアからの批判、もっと言うなら軍隊やテロリストからの恫喝に屈しない」ということである。メディアは、そういうリスクと隣合わせで報道しなければならないということを自覚するべきである。さらに、新聞メディアの責務は、社会で発生している出来事について、できるだけ多くをわかりやすく、その背景と由来とを説明し、今後の展開をしっかり予測することである。

 そういう意味では、今回の事件について「責任を持って真実を伝えた」という自負はあるのかもしれない。しかし、医療者側からの「捏造」の可能性について、徹底的に抗議される可能性を本当に予測していたのであろうか。もし、そうしたことが想定の範囲外だとしたら、大野病院事件から何も学んでいないことになり、新聞メディアとしては深刻的な危機的状況にあると言わざるを得ない。

 医療者は、もうこれまでの医療者とは違う。現在の医療者のほとんどは、「医療崩壊」への道にマスコミが一定の割合でコミットしてきたと認識している。マスコミの一挙手一投足の報道に対して、真偽の目を向けている。正しい、間違いの問題ではない。「現場の医師はそう思っている」ということである。

 これまでメディアは、「患者や被害者側からの告発を選択的に報道し、医療側からの申し開きについては不信感を示す」という姿勢を採用することで、さまざまな医療報道を行ってきた。もちろん、私も社会的疑惑を暴き、糾弾し、正義を訴えてきた新聞報道のすべてを否定するつもりはない。ただ、医療報道を行う際に気付かなくてはならないことは、「批判さえしていれば、医療というものがどんどん改善していくわけではない」ということである。さらに言うなら、「メディアは、医療機関に対して仮借のない批判を向けることによってのみ医療の質が改善され、医療技術は進歩し、患者へのサービスは向上するという、空虚な幻想に取り付かれたままになっている現状に早く気付け」ということである。

 メディアが、テンポラリーに患者や被害者などの社会的弱者の味方に付くことは正しい。弱者の背後に回り、下支えすることにより議論の土俵にお互いを乗せることがメディアの役割である。あくまで議論の場を提供するという行為にのみ、メディアのとりあえずの役割がある。そこで冷静に議論し、その結果、弱者の主張に無理があったのならば、それを公平にジャッジして、正しく報道することがメディアの使命なのではないのか。私はそう思う。しかし、メディアは一度擁護した相手の主張が反証されて「弱者の言説には無理があった」と判明した場合に、それを打ち明けることは威信に懸けてけっしてしない。

 本事件では、告発した患者や被害者がいたわけではない。報道によって、がん患者がどれだけ困惑し、不安を感じたか。そういう自体になることを朝日新聞は本当に想像できなかったのであろうか。

 医療という公共的な資源を支えるためには、医療者をはじめとして国民全体で「身銭を切る」という自覚が必要である。非難することがメディアの仕事ではない。今のままだと、クレーマーたちとやっている行動が同じである。

 もうひとつ現場の医師が将来に対して不安に感じていることは、「医療をめぐる訴訟が、増えることはあっても減ることはないであろう」ということである。

 医療崩壊が叫ばれて以来、徐々にではあるが医療は再生してきていると感じている。栃木県においても、我が大学病院ではドクター・ヘリを導入したり、私たちの扱う神経疾患患者に関して言えば、神経難病ネットワークを構築したりして、「断らない医療」を実践すべく努力している。そんな些細な毎日の医療活動に、報道するべき事件なんかない。医療に関しては、当たり前の話題しかないのが本来の姿なのである。しかし、「今日も昨日と同じようにたくさんの方が治療を受けて良くなりました」という話題をメディアは歓迎しない。常にセンセーショナルな話題を切望する。

 医療の上げ足を取ることは、実は簡単なことである。なぜなら、私たちは常に不確実・不確定なことを試行錯誤で行っているからである。治験というものはその最たるものである。未承認の薬を実験的に使用しているのだから、当たり前である。

 私もこれまでに数々の治験に参加してきた。「有害事象」というのは、「薬物を投与された被験者に生じた、あらゆる好ましくない医療上の出来事」であり、必ずしも当該薬物の投与との因果関係が明らかなもののみを示すものではない(一方、副作用は、有害事象のうち因果関係が否定できないものを指す)。

 私は、治験中の患者が鍋で火傷を負ったり、転んで怪我をしたりした有害事象に対して、それは明らかに投薬や病気とは関係がないので(本人の不注意ではあるが)、治験コーディネーターと相談して「有害事象」に挙げなかった。これを権力者が指摘したら、私の取った判断は非難に値するであろう。「有害事象」に挙げなかったとして新聞で報道されたとしても文句は言えない。「皆がやっている」という言い訳は、監視する立場の人間には一切通用しないからである。

 社会が成熟してモラルやシステムが改善され、違法行為が少なくなればなるほど、権力側は自らの存在意義を持続させるために、これまでは問題にされなかった些細な違反を取り締まりの対象として強化する。

 12月6日付けで「医療報道を考える臨床医の会」に届けられた、朝日新聞の代理人弁護士からの「申し入れ書」を通読した。朝日新聞は、「捏造」の疑惑を撤回しなければ法的措置も辞さない構えに出ている。議論の場は司法に移される可能性がある。

 日本の弁護士が米国と比較して圧倒的に少ないことは事実であるが、その理由は、米国より弁護士を雇う事件が圧倒的に少ないからである。それをどう勘違いしたのか、日本の法務省はロースクールを設置したりして弁護士の合格者を増やす決定をした。新人弁護士の失業が増える可能性がある。メディアは、今後、喧嘩をふっかけることによって社会に変化を起こさせ、司法の介入をサポートする媒体として機能する世の中になっていくのではないかと勘ぐりたくなる。

 東京大学は紛れもなく日本最高峰の大学である。そこで働く医療者の研究が、優位に最先端医療という名目で治験の基準が緩和され、研究費も上乗せされ、大学がベンチャービジネスに乗り出すことも特例として許可されたかもしれない。東京大学の研究者を妬む人がいたのか、朝日新聞の記者が自分の業績を考えて無理な記事を書いたのか、それはわからない。

 ただ、ジャーナリストには、自分で書いた記事に関しては自分で責任を引き受ける覚悟が欲しい。私たち医師は自分の医療行為に対して、そういう覚悟で生きている。中村祐輔氏を糾弾したいのならば、「私たちは事実を伝えたかっただけです。後は世論が判断してください」という言い訳は通用しない。

 医療者側の抗議が留まることはないであろう。医療界は出河氏と野呂氏のことをけっして忘れない。今後も醒めた目で熱く傍観していく。「叩きさえしていれば医療は向上する」という呪縛から、もういい加減抜け出してもらいたい。医療者の士気をこれ以上削ぐようなことはしないでもらいたい。報道することによって世の中がどう変わるのか、あるいは変わらないのか、また、報道の責任を誰が背負うのか、「言論の自由」を唱うのであれば、そういうことをしっかり視野に入れて報道すべきである。



クローズアップ

EML4-ALK肺がんに対する海外治験参加の経験(その2/2)

大阪府立急性期・総合医療センター
内科・呼吸器内科 谷尾吉郎


(2010年12月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行  http://medg.jp
韓国への飛行

 11月27日(木)ドクターヘリ機内でSpO2 92% (酸素3L/min)という厳しい状態であった。同行医師には「もし上空でトラブルがあったら,ソウルは諦めて戻って来い」と言い含めた。11:30am Aさんはドクターヘリに搭乗して,当センター屋上より関空へ飛び立った。関空ヘリパッドに到着すると,横付けされた救急車によりJAL機内まで運ばれ,そこで搭乗手続きをして,インチョン空港へ向った。
 約2時間のフライト中,上空水平飛行中に咳嗽発作が起き,Aさんは酸素6L/min必要となったが,インチョンに無事着陸できた。Bang教授の手配で空港正面に横付けされた救急車により,ソウル大学医学部附属病院へ緊急入院となった。
 ソウル大学では担当医師とCRCにより,すべて英語で治験の説明と同意がなされ,登録に至った。実は韓国でもAさんが第1例目の登録であり,アジアで最初の登録となった.
 入院翌日,胸水排液にて呼吸状態の改善がなされた後,夕方より治験薬PF-02341066(クリゾチニブ)の内服が開始された。診断からわずか2週間での海外治験開始であった.その日のBang教授からのメイルには「Many peoples in Japan, Korea, and the US did a great job to facilitate the enrollment of this young patient.」とあった。  


劇的な効果とその後

 クリゾチニブ内服は250mg 2回/日,28日/サイクルで12サイクルが予定された。Aさんは内服1週間にして劇的に症状の改善が見られ,酸素無しでソウル市内を歩くことができた。約1ヵ月後,Aさんは酸素ボンベ不要となって日本への帰国を果たした。12月30日当センターの時間外救急外来でCT撮影をして,クリゾチニブの効果を確認した。

 平成21年3月14日,第1回ALCAS研究会が間野教授の主催で品川にて開催された。目的はALK肺癌の病態の理解と診断方法の普及であった。その成果は曽田らによって平成22年のASCO2010で披露された。
 しかし、Aさんの病状はPRを持続していたものの一進一退で,なかなか消失しない胸水に対して行われた頻回の胸腔穿刺(癒着剤の使用は不許可),嚥下障害に対する食道ステント挿入(ソウル大学において施行),ガンマナイフ後にもかかわらず残存する脳転移病巣に対する全脳照射(この間治験薬の内服禁止)が施行された。
 遂に5月になり呼吸状態の悪化を来たし,5月25日CTにて明らかな原発巣の増大を認めたため,Bang教授とメイルと電話のやり取りを行い,PD判定でプロトコール治療中止が決まった。
 その後胸腔ドレナージ+胸膜癒着療法を施行し,未使用レジメンでの化学療法を継続したが,徐々に呼吸不全と疼痛が増強し,オピオイドと酸素流量の増量によるターミナルケアの末,この年8月に亡くなった。享年28歳10ヶ月であった.ご遺族の許可を得て剖検が行われた。


米国臨床腫瘍学会ASCOでの報告

 ASCO2009 が平成21年の5/28-6/2オーランドで開催された。多種類の腫瘍を対象とした経口MET/ALK阻害剤PF-02341066の第1相増量試験は,米国,オーストラリア,韓国の共同研究として,Kwakにより報告された。PF-02341066はMETとALKの経口キナーゼ阻害剤で,選択的にATPを競合阻害する,ALKの融合遺伝子NPM-ALKとEML4-ALKのインヒビターである。第1相試験での推奨用量は250mg を1日2回であって,副作用は許容範囲内であった。
 約3年前に始まったこの第1相試験の経過中,2007年Nature誌上に間野らにより肺がんの新しいがん遺伝子EML4-ALKの報告があり,さらに49歳男性の非小細胞肺がん患者が劇的に奏効したことを受けて,急遽ALK融合遺伝子を有する非小細胞肺がん患者を対象にした,推奨用量でのコホート研究へ発展したことが明かされた。NCIキャンサー・ブレティン(http://www.cancerit.jp)によると,この段階で臨床現場の研究者が製薬メーカーと緊密な協力関係を築いて,柔軟かつ迅速に対応したことが,その後の同薬剤の発展につながったと言われている。
 FISH法でALK融合遺伝子が証明された非小細胞肺がん患者19名の治療結果が報告された。27名のALK肺がん患者が登録され,内19名の奏効率が解析されてPR 10 (53%), SD 5, PD 4,病勢コントロール率PR+SDは79%であった。
 そして今年の米国臨床腫瘍学会ASCO2010 は6/4-6/8シカゴで開催され,プレナリーセッションの一つとして,Bang教授の「ALK陽性の非小細胞肺癌に対する経口ALK阻害剤 PF-02341066の臨床効果」が選ばれた。昨年より症例数を82名まで増やして,米国,オーストラリア,韓国の共同研究として報告された。

対象患者:ALK融合遺伝子を有する非小細胞肺がん患者82人
第1相試験で決定した推奨用量500mg分2による拡大試験
男女比43:39,年齢平均51歳(25〜78)
人種:
コーカサス56%,アジア35%
組織型:腺がん79(96%),扁平上皮がん1(1%),その他2(2%)
奏効率:57%,(治療開始8週間の時点の病勢コントロール率87%)
観察期間が不十分だが,6ヶ月の時点での無増悪生存期間は72%と予想された。
その他,有害事象は現時点ではすべて許容範囲内で問題はない。


おわりに

 現在,白金系抗がん剤ベースの治療が無効となったALK陽性非小細胞肺がん患者を対象とした,国際的第3相試験が開始されている。適格基準は上記以外に,プラチナ製剤を含む化学療法を1レジメンのみ受けて,その後PDとなった患者で,A群がクリゾチニブ,B群が対象薬のペメトレキセドあるいはドセタキセルの,セカンドラインとして行われる非盲検,無作為化試験である。
 目標症例数318名で米国,オーストラリア,韓国,香港,そして日本が加わっての国際共同治験である。さらに,B群の患者には,対象薬が効かなかった場合に備えて,クリゾチニブの第2相試験が用意されている。
 今回,EML4-ALK癌遺伝子の発見者, 間野博行博士を擁し,しかも世界でEML4-ALK腫瘍の診断技術に最も優れている日本がなぜクリゾチニブの第1相試験に参加できなかったのかは,Aさんを韓国へ送った当時大きな疑問であった。
 しかし,アジアの中で韓国と日本を比較した時,残念ながら治験体制の不備が大きな問題として横たわっていることに気づかされた。治験登録に要する時間とコスト,さらに無過失補償制度の欠落は製薬企業に大きなリスクを強いることになる。これがひいては日本での治験の空洞化を招き,ドラッグ・ラグ(新薬の導入遅延)の一因となっていると思われる。
 今回パフォーマンスステイタス(PS)が悪かったAさんをクリゾチニブの治験に登録したことから,韓国の治験の質を疑う,との発言が一部に聞かれたが,まったく見当違いの発言である。日本においてBang 教授に接触した段階では,酸素は1L/min経鼻で吸っていたが外出もされ,PSは1-2であった。
 その後ソウル大学において胸腔穿刺するまでは6L/minでPS3-4だったかもしれないが,排液後PSは改善していたに違いない。そしてクリゾチニブ内服で劇的にPSは改善し,酸素フリーになった.この約2週間のPSの変化は,海外治験であったが故の変化である。つまり、日本でこの治験ができていれば、気胸の心配をせずに胸水排液ができて、PSは1-2に保たれていたはずである。
 Bang教授にはその後多くの日本人ALK肺がん患者が助けていただいており,医療水準の高さを物語っている。酸素下のAさんを,インチョン空港に救急車を横付けしてソウル大学附属病院に緊急入院させてくれた救急体制は,最善・最良の治療ができるという自信・裏付けがなければできるものではない。
 登録はファイザーが許可したものであって,それ以降最善の治療を行ってくれた韓国の医療体制に敬意を払うとともに,逆の立場に立って,はたして日本が同様の医療を提供できるかどうか問う必要がある。
 今後も多くの分子標的薬が開発され,国際共同治験の数も増加していくであろう。経験したことのない有害事象も増える可能性があるが、最善・最良の医療ができなければ,治験参加は困難である。その時はじめて治験の質,医療の質が問われる。

 今年になって, 日本も国を挙げてドラッグ・ラグ解消に向け努力しつつある。その一つが未承認薬・適応外薬の公知申請の推進であり, 国立がんセンターが中心となって行う全国のがん診療連携拠点病院の連携による治験推進構想である。
 無過失補償制度の制定にはまだ時間がかかるが, 治験に対する医療者も含めた国民の理解が浸透すれば可能であり, やがては欧米をしのぐスピードで新薬供給が可能となることに期待したい。

謝辞

 海外治験参加の経験は,平成21年8月に逝去されたA氏とご遺族の方々の許可を得て紹介いたしました。ここに改めてご冥福をお祈りいたします。


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